(前回からの続き)
―あなたの演奏歴を振り返ってみたら、意外にもハープのソロ演奏というよりは、色々な演奏スタイル、クラシック以外の曲の採用、ハープ以外の楽器とのコラボレーションの方が多いことに気付きました。これらは、意識的にやっているのですか?
サーシャ:そうですね。デュオ、トリオ、カルテット。確かに私は、すべてを演奏したような気がします。加えてオーケストラの楽器、様々な声質の歌手、電子楽器、DJともね。私は、アーティストとしてより高いレベルで演奏したい、新しいアレンジに取り組み続けたい、そしてもちろん、より多くの観客を集めたいという思いが常にあるのです。アーティストとは、大衆の存在と支持なくしては成り立たないのですから。最新の大規模な室内楽コンサートは、いま私のYouTube内で公開されています。私の夢は、現代を代表する作曲家の一人が書いたハープとピアノの協奏曲です。私たちは、このような作品を必要としていますし、一度はそれが実現することを願っています。
―地道な来日活動もあって、日本にもファンが増えてきたね。ただ世界中飛び回ってるから、日本ばかりに来るわけにもいかない。そうなると、やはりアルバムのリリースとか、音楽活動の動画発信などが、ファンと心を繋ぐ要素となるわけですが、今後リリースの予定は何かありますか?
サーシャ:実は、今シーズンには、たくさんのリリースが予定されています。すでにここの読者はご存知かもしれませんが、私の音楽とディズニーのために30年以上働いていたアメリカの作曲家ブルース・ヒーリーの作曲がコラボした最初のアルバム「Harp Stories」をリリースします。素晴らしい作品なので、ご紹介しておきますね。もうひとつは、「ハープと声~オスマー・シェックとオスカー・ウルマーによるスイスの作曲家たち」は、数ヵ月後に発売される予定です。最後に、バッハやベートーベンに始まり、ボブ・マーリーやクイーンまで、ハープ用にアレンジされたクロスオーバーとクラシックの楽曲20曲を、2枚のアルバムに収録したアルバムのリリースを考えてます。これはたぶん今年の11月頃に日本で発表予定の、今までで最大の作品になるでしょう。だから、ファンの皆さんは、新しいエレクトリックハープのシングル、新たな曲、新しいアレンジメントなど、私の作品に触れるという点ではとても充実した一年になるはずです。
―さて、私は今まで折に触れ、君の愛国心の強さに接してきたし、だからこそ故郷を離れざるを得なかった気持ちは痛切に理解できる。いつか故郷に戻るつもりですか?
サーシャ:私たちの世界は、決して広くはありません。成田空港に降り立つと、いつも原点に戻ったような気持ちになるのです。日本は私の魂の故郷であり、実際の故郷を失った私の居場所でもあります。もちろん、祖国は懐かしい。スイスにいること、アメリカ、日本、フランス、ブラジルなどを旅することで、国際的な雰囲気を感じ、友人たちに会い、皆のために常に何かをしていることで気も紛れるのです。でも私は、自分が生まれた国に多くの恩があります。そして、ロシアを真に再建するときが来たら、私はその最初の一人になるつもりです。今はただ、私たちが共に明るい未来を築き、すべての国が「心の平和」を見出すことができるように、希望を持ち続けてほしいと願うばかりです。
サーシャが、無事で演奏活動をしていることに安心したファンも多いと思う。だが、彼の正しい姿を今一度お伝えする。一見、ロシアの暴政に反発して出国した人々もきっと英雄視されていると、我々は勘違いしがちだ。だが実際には、ユーロ圏や北欧の人々は、こうしたロシア人難民の受け入れを拒絶している国も多い。北欧の某国では、すでに壁を築き始めた国もある。なぜか?彼らは侵略者ロシア人を信用していないから。事実、戦争は反対だが、自国のロシアは大好きという難民はたくさんいるのだ。そうした民が一定数入ってきて、生活を始め、その数年後にロシアの民たちを救うためにという口実で、今度は自分たちの国へロシアが侵略してくる可能性がある。事実、クリミア紛争、ウクライナ侵攻はそこから始まった・・・同じ手口で二度と同じ轍を踏まないという思いから壁で断絶するということだろう。サーシャは、ロシア侵攻以前からスイスに居住していたから、現地で快く受け入れられた。一方で彼が演奏により、多くのチャリティに参加し、平和貢献し続けているのは、自らを公的に晒すことで逆に祖国ロシアの制裁から身の安全を堅持している、ともいえると思う。彼は、我々からは想像できない重い十字架を背負ったともいえるだろう。だが、音楽はやさしい。唯一の平和言語だ。その“言語”でサーシャがハープを通じて語り続けているとき、世の中は平和な状態・・・なのかもしれない。(本サイト編集長)