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編集長インタビュー:松岡莉子~静かなる情熱

 

 松岡莉子を一言で表すならば、「静かなる情熱」である。ケルティック音楽にリーチしようとすると、最近は彼女の名前にたどりつくことが多い。伝統的かつ牧歌的で素朴な響きを有するケルティックは、大々的なプロモーションによって人々に伝播してゆくのではなく、気付くと人々に浸透し、いつのまにか心に棲みつくような音楽だ。ある意味、彗星のように現れた彼女は、どのようにこの音楽に結び付いたのか。本人から、直接話を聞く機会を得た。

 

 驚くべきは、14歳からハープを始め、英国王立スコットランド音楽院、スコットランド音楽学科(スコティッシュハープ科)の修士課程を日本人で初めて修了。在学中は音楽院より奨学金を授与され、2018年には、スコットランドで開かれたケルティックハープのコンクール「The Princess Margaret of the Isles Memorial Prize for Senior Clàrsach」にて優勝。翌年には、ケルト音楽の祭典「ケルティック・コネクション」や世界最大規模のハープの祭典「エディンバラ・ハープフェスティバル」へ出演・・・日本人として初めてという栄誉がずらりと並ぶ。だが初心者からここに至るまで、数年しかかかっていない。これは驚異的なことだ。ハープを学ぼうとすると、とにかく「大変な楽器」といった固定概念や変な脅しを受けて萎縮してしまう向きもあるが、彼女の成功例はそういった方々への絶好の福音になるだろう。ハープ上達の秘訣を尋ねたら、「憧れとマネ」であったという。
「もともと、私がスコットランドへ行ったきっかけは、カトリオーナ・マッケイのハープに魅了されたからです。私も上達まで早かったわけではありません。大学時代にカトリオーナの音楽に出会い、そこから憧れを抱き練習を重ねました。当時は、今ほどインターネットがあるわけでもなく、とにかく現地の奏者たちの演奏をコピーしまくってました。日本でできることは、それしかなかったのです。ケルティック音楽そのものが、元々譜面に頼る音楽ではなく、それこそ耳で聞き、覚え、独学だけれども弾き続けた。今想うと、必死でマネをしてきたその期間が一番上達を実感できました」
好きこそものの上手なれ、そんな言葉があるが、さらにスコットランドへ単身留学してしまうという行動力に、彼女の情熱を絶やさない姿勢と夢を夢だけに終わらせない信念のようなものを感じ取れた。イギリスの中にも何種類か、加えてアイリッシュなど、ケルティック音楽には、想像以上に多くの種類の音楽がある。その中でスコットランド音楽は、割と様々な要素が混ざっている音楽だという。そうした背景からか、日本デビュー当初から、松岡の演奏レパートリーには、映画音楽、ポップス、クラシックと多岐にわたっていた。求められての演奏だったとは言え、ケルティック純血主義ではなく、“すでに皆が知っている音楽に香るケルティック”から浸透し、気が付けば松岡ワールドに沼っている。それは前記のように、「ケルティック音楽が持つ包容力の見える化」に他ならなかった。柔和かつ穏やかな彼女からは想像できないハープへの深い情熱は、招聘コンサート・プロデュースにも結び付いてゆく。

今夏に、マイケル・ルーニーとジューン・マッコーマック(アイリッシュフルート)、シボーン・バクリー率いるミュージックジェネレーション・リーシュ・ハープアンサンブルを招聘します(注:流行り病の蔓延前から企画されていた)」。ルーニーは、現代アイリッシュ音楽ではカリスマ・ハーピスト。現地では、皆がこぞって彼のコードや奏法をまねるほどだという。シボーンは、カトリーナの下で共に学んだ、いわば戦友。アイルランド国内の29地域にて「ミュージックジェネレーション」という国立音楽教育プログラムがあり、シボーンは同リーシュ校のアイリッシュハープ講師として100名以上の学生を指導している。マイケル・ルーニーもゲスト講師として頻繁に招かれているという。今回は、彼女が指導するハープアンサンブルのメンバーと共に来日する。つまり、松岡は本場のケルティック音楽を届けるためにも奔走しているのだ。これは、必見である。

 

 冒頭「静かなる情熱」と称した彼女のビジョンは、さらに未来も見つめている。前述のコンサートが終了してから、実は自らの音楽発信のために、アメリカへの移住を考えているのだという。やはり、スコットランド音楽をベースにしながら、その過程で吸収・孵化させてきた自分の音楽を、さらに広い視野の下で開花させたいという想いと、後進の指導も含め信じる音楽を幅広く人々へ伝播させたいという考えからだろう。これらの詳細は、すぐに計画を実行し、きっと成功を収めているだろう彼女へ、また次の機会にでも尋ねてみるつもりだ。

 

 

マイケル・ルーニー(ハープ)

ジューン・マッコーマック(アイリッシュ・フルート)

シボーン&リーシュハープアンサンブル

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