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編集長インタビュー:有馬律子~自らの色彩を求めて

 

 思えば、あれが終わりであり始まりであった。かつて銀座十字屋は、本社ビルに「十字屋ホール」という小さなホールを有していた。ビルのリニューアルに伴い、惜しくも閉鎖と相成ったが、実はフィナーレの出し物が、有馬律子のリサイタルだった。いかにも老舗の十字屋らしい考えだが、「ホールは閉まるが、ハープが終わるわけではない。次代を担うハーピストに、最後を締めてもらいましょう」と、有馬に白羽の矢が立った。

 

 「あまり他の方が演奏していない楽器をやりたかったのです」。ハープを始めた動機を、有馬はそう語ったが、実際はあるハーピストの演奏と人間性に圧倒され、少しでも近づこうと研鑽を重ねて来たというのが、本当のところだろう。両親は二人とも演奏家。憧れだけでは食べていけない世界であることは、二人を見て育ったから分かっていた。だからこそ、少女の有馬は、自分が選んだハープという楽器のなかで、大袈裟にいえば人生を賭けるに足る指針が欲しかった。そこに現れたのが、ヤナ・ボウシュコヴァだった。レッスンを受けると、すぐに結果が出る。演奏を聴けば、感動の波が途切れずに襲ってくる。世界屈指のハーピストに畏敬の念を注ぐとともに、いつかこの人に教えを請い、ハープをもっと上達させたいという想いが芽生えていた。緊張からか所在なげだが、芯はしっかりしており、透明なハープを弾く・・・十字屋ホールで見かけたのは、そんな時期の有馬だったのだ。

 

 腹を括った有馬は、ヤナに師事するためチェコへ2年間の留学を決める。陽気で懐が深い師とのレッスンは、練習があまり好きとはいえなかった有馬が、次のレッスン日が待ち遠しくなるほど充実したものだった。テクニックはもちろんだが、ハープに取り組む心の在り方の方が感銘も深かったという。「固定概念を変えて下さるのです。テクニックが必要なパートで苦戦していたところ、先生は『手を見せて。あなたには、全ての指が揃っていて、充分な長さがあって、両手足だって満足に揃っている。私と何ら変わるところがない。だから、あなたにできないことは何一つもない』と云われた瞬間、内面の意識がそこからかなり変わっていったのです」。恐らく、この留学でヤナへの思慕を高めると同時に、日々成長を体感でき、自分の据えた指針に誤りはなかったと確信できたことが、最も大きかったのではないか。実は、かねてインタビューしたヤナからも、有馬を「印象的な弟子であり、音色がとても印象的だ」と褒めていたことを思い出す。成果を問うかのように「演奏をしたい」、そんな強い思いから有馬は帰国を決めた。実際、最近の有馬は、あの頃とは断然顔つきが変わった。瞳はまっすぐ前を向き、そこには光と自信を湛えていた。

 

 有馬は、師匠のヤナが「モルダウ:スメタナ」でつとに有名なように、自身のスペシャリティとして「ヴェニスの謝肉祭」に磨きをかけているという。ヤナの薫陶を受け完成させてきた曲だからだ。10月14日に、東京・ルーテル市ヶ谷センターで行われるリサイタル「mollの色彩」も、その反映ともいえるソロで挑むものとなる。全てが短調の曲。だからといって、暗い色調になるわけではない。作曲された背景にも心を寄せ、そこに自らの色彩を添えるような展開になるという。スカルラッティ、トゥルニエ、シュポア、ウーディという選曲のなかで、ひと際目を引くのが、師の十八番「モルダウ」だ。「まだ、一度も(ヤナ)先生にご指導いただいてない曲なのですよ」と有馬は屈託なく笑うが、師の教えに自分なりの意匠を加えてリサイタルで色濃く反映させようという表われだと思う。きっと師のヤナも、「律子にも羽が生え揃ったわね」と、大喜びしているに違いない。 (聞き手/本サイト編集長)

 

敬愛する師匠ヤナ・ボウシュコヴァと

 

 

【ライブ情報】

有馬律子 ハープリサイタル<mollの色彩>
2022年10月14日(金) 19:30開演
東京・ルーテル市ヶ谷センター
料金/3500円  問い合わせ:KAZELFA 042-372-8860

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