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名盤リワインド㉓ イシ&アイユー~20世紀ソロ・ハープのためのオリジナル作品集/マリー=ピエール・ラングラメ

 

 

 今年最も注目されるコンサートのひとつが、吉野直子とマリー=ピエール・ラングラメの競演である。世界的なハーピスト2人がステージで華麗な演奏を繰り広げるとは、想像だけでわくわくするが、ラングラメの凄さに関して、我々はさほど知り得てはいない。二人は、イスラエル国際コンクールでトップに立ったことで共通項がある。ラングラメは、ベルリン・フィルの首席ハーピストを務めてきた。つまり、最高ということである。だが彼女は、ソロ演奏などで日本のステージに立つ機会はその腕前の割には希少だったし、多くの録音を残したとも言い難い。そこで、本作「イシ&アイユー~20世紀ソロ・ハープのためのオリジナル作品集」の存在が浮かび上がる。

 

 20世紀のハープのためのオリジナル作品を集めた2枚組のソロ・アルバムだ。『ICI(Here/ここ)』と題した1枚目では、祖国フランスの作曲家たちの作品を集め、『AILLEURS(Elsewhere/よそ)』と題した2枚目では、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、ロシアなど他国の様々な作曲家の作品を年代順に並べて、20世紀を包括してみせた。本作の手柄は、ヒット・メドレーになっていないところだ。アーティストとして、吟味した曲を集めた。ラングラメの見た20世紀のハープ史になっている。これによって、たとえばロドリーゴに陽の目が当たり、エネスクの「演奏会用アレグロ」のような聴いたことのない曲が“発掘“された。ヒナステラも同様だし、どちらかといえば映画音楽で名を馳せたニーノ・ロータも入っている。自国のフランスの曲としても、ウーディやプティジラールらの曲も入っている。録音は、2017年と2020年に行われているということは、今のトレンドは彼女がハシリであった可能性が高い。元々ハープ用の名曲アレンジは、ピアノなどに比べてとても少ない。しかも時代に沿って、名曲の概念は都度リニューアルされてゆく必要がある。その役割を担っているのも、他ならぬハーピストたちなのだ。だがそれができる人は限られているし、可能な存在こそが名手の条件でもある。ラングラメは、まさにそのような存在であることを、本作は証明している。

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