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ディスク・レビュー:ハープの香り/福井麻衣

 

 フランス人の演奏より、エスプリが利いている・・・といえば、言い過ぎだろうか。福井麻衣による「ハープの香り」は、フランスをテーマにしたハープ珠玉曲集である。冒頭、アンドレス、タイユフェールという、あまりオープナーとしては採用しないような作曲家を配すが、これは聴き進めると、福井独自のフランス物語に引き込む重要な呼び水になっていることがよくわかる。ギターライクな捌きには活気とメリハリがあり、まるでパリの雑踏に立ったような印象から入るのだ。これはアンドレスの「デューク」で、アンドレスがデューク・エリントンに捧げた曲。本場アメリカの次に早くからジャズを歓迎したフランス文化の進取の気象を表しており、小粋である。そして5曲目あたりから、やっとフランス近代の核心ともいえるドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が入る。凡百のアルバムだと、この曲あたりがオープナーとして採用されることが多いと思う。その後ドライブがかかり、ルニエ、ルーセル、ピエルネ、フォーレの綴れ織りである。最後のサン=サーンスまで、こちらの耳心地優先の曲順といったら考え過ぎだろうが、福井麻衣という語り部の巧さにほだされる。彼女自身がパリ音楽院で学んだ経験からか、日本人が遠くから憧れで仰ぎ見るフランスではなく、自身が体感を通じて捻り出したフランスの音が溢れ出ている。だからこそ、冒頭、こんなフランスもある・・から入り、「誰もが知っているフランスだけれども、私はフランスをこう捉えた」という描写で中興を盛り上げ、後半では余力さえ残してサン=サーンスの「幻想曲」で締め括った。大袈裟にいえば、パリ・ジェンヌをまねた服ではなく、パリ・ジェンヌのほうが参考にするような洒落た服を着こなしていると言ったらよいだろうか。技術的に印象的なのは、ハーモニクスの的確な処理や粒立ちが揃った一音一音の見事さであったりするが、何よりそこかしこに余裕が感じられるのだ。それが独特の間(ま)を生み出し、音にオリジナルな彩りを与えることで、聴き手には寛ぎを与え、むしろフランス人には紡ぐことのできないフランス物語を構成している。

 

 また、このアルバムは全体を通じて、録音状態がとても良い。普段は、ジャズのテナーサックスの低音部を鳴らすことで酷使させられている我がヤマハのモニタースピーカーが、まさに解放されたかの如く、キラキラした音の波状を嬉々として再現していたのが印象深い。ハープでは人気のフランス近代であるが、このジャンルでは次世代をリードする羅針盤的な作品として、頭ひとつ以上抜け出したアルバムといえるだろう。

 

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