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名盤リワインド⑦ ハープ協奏曲集/アンネレーン・レナエルツ

 

 

 

 この協奏曲集を聴くと、アンネレーン・レナエルツと出自に関して、色々と想像を巡らせられて楽しい。彼女は、今やヤナ・ボウシュコヴァと双璧といって差し支えない、ヨーロッパを代表する女流ハーピストだ。理由は、ウィーン・フィルのソロ・ハーピストに選ばれているからというだけで十分だと思う。ユニークなのは、二人の共通項だ。ヤナはチェコ、アンネレーンはベルギー出身で、孤高の存在ということだ。いずれも史実において大国の争いの犠牲、もしくは通り道になってきた国の出だ。裏を返せば、多国文化が否応なしに流入し、それが混然一体のテイストとなって多方面へ表出しているということにもなるし、いたずらにひとつの音楽ジャンルに固執しないしなやかさも持ち合わせているともいえるだろう。ベルギーは、オランダ系文化圏を筆頭に、ドイツとフランスの言語圏が加わる。18世紀にはラテン系のスペインの影響も受けている。ヤナのチェコも東欧と西欧の玄関口で、幅広い音楽文化を吸収している。つまり、双方ともに音楽におけるヨーロッパの縮図そのものを享受してきたと言えないか。

 

 

 本作とは別にイタリアのクラシック・映画音楽の大家ニーノ・ロータの曲集もモノにしたアンネレーンの引き出しの多さは、実はこういう出自から来ているのではないかと推察したわけだ。このアルバムで彼女は、近代とみに重要度が増してきているグリエール、ジョンゲン、ロドリーゴを選び、タクトは現代音楽では著名のタバシュニックが振っている。いくら勝手知ったる地元の交響楽団を起用、ラテンも消化してきた彼女自身の出自によるものとはいえ、アランフェスをこれほどこなれた調子で弾くハーピストはそう多くない。皇帝メストレでさえ、ラテンものには多少の収まりの悪さを見せるため、彼は名手とのデュオという形で、自分のハープをラテンものに同化ではなく両立させるという賢い選択をした。アンネレーンの場合、冷静にハープの周波数帯域の広さを活かしつつ、血としか言いようのないタイム感覚とで、アランフェスをまるでハープ・オリジナルの協奏曲のように響かせている。本作のハイライトであり、これには舌を巻くだろう。ベルギーの多文化の恩恵に浴し、さらに天性のリズム感覚と卓越した技量が、アンネレーンをここまでの存在にしたのだと、このアルバムは語ってくるのである。

 

 

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