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名盤リワインド① 「スモーキン・プレリュード/天江恵子」

 

 

 いま1980年代に流行したシティ・ポップが、再流行しているそうだ。聴き返してみると、いかにも日本らしいというか、洋楽の良いところをピックアップして、深入りしない程度にライトなアレンジを加えてあって、「なんちゃって」の一段位上を往くような音楽だった。80年代当時、これら洋楽を輸入してきてローカライズを加えた耳心地の良いサウンドがシャレオツな音楽であったことは確かで、ジャズのメインストリームの第一人者であり、今も代名詞といえる渡辺貞夫(アルトサックス)も、資生堂ブラバスのCMで「カリフォルニア・シャワー」というフュージョン曲でヒットを飛ばし、シティポップ以外の音楽においても、カッコ良さの基準が大いに変革した時代でもあった。実はハープでも、同時代にファンク&フュージョンで華を咲かせた奏者がいる。天江恵子である。

 

 時代に何となく乗って、軽快なメロディを弾いている・・・それだけでは、けっして感心すまい。天江は、クラシック畑出身で、実は日本人としては初めてボストン交響楽団と共演を果たした第一級のハーピストであった。その天江が、「ファンク?フュージョン?」と周囲が驚愕するような音楽へ挑んだのだから、当時のインパクトはさぞかし大きかったことだろう。ファンク畑の側からも、「そもそもハープとファンクなんて合うの?」というためらいもあったに違いない。だが本作「スモーキン・プレリュード」には、全ての疑問を払拭する音楽が詰まっている。

 

 アルバム制作を仕切ったのは、上田力。パワーステーションというフュージョン・バンドを率いて、日本のフュージョン・シーンを牽引した、キーボード奏者/作編曲者で、晩年はラテン系に傾倒し、ボサノヴァの王様アントニオ・カルロス・ジョビンの研究等にいそしんだ。本作は、この上田の目利きが奏功した会心の出来といえる。一流には、一流をぶつける。正直、この手の音楽が大好きではあっても、天江がファンクの深淵をその当時分かっていたかといえば、恐らくはNOだろう。しかし、一芸に秀でた者は他の芸の良さも知る。上田は、国内外のナンバー1奏者たちを天江にぶつけた。チョッパー・ベースの開祖的な存在で、ウネウネした本物の真っ黒いベースを弾くルイス・ジョンソン。サックスに、清水靖晃、本多俊之という日本のBIG2を配した。楽器の性質上、どうしても奥に引っ込んで聴こえるハープだが、ミキサーもギリギリのイコライジングで乗り切っている。リマスタリングでさらに音は良くなるはずだ。何よりルイスのかなりファンキーなビートを包み込むようにハープがまとわりつき、考えもつかなかった楽器のマッチングが意外にも快適なのには驚かされた。時代背景もあって、そこにはディスコ調あり、レゲエの変則ビートありで、アレンジに多少の古さを感じはしても、卓越したハープの技量、時を超えるレアグルーヴ感・・・このまま捨ておくにはあまりに惜しい意匠である。タイトルの「スモーキン~」は、あのマイケル・ジャクソンの「スリラー」のプロデューサーでビッグバンド・リーダーでもあるクインシー・ジョーンズがデモテープを聴いて「スモーキン!(イカしてるぜ)」と呟いたことから。日本にも凄いハープ音楽は確実に存在していたのである。

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